定年後の人生について考えるとき、「自分には特別なスキルがない」「これといった専門性がない」と不安になることはありませんか。
長年、一つの道を極めることが美徳とされてきた中で、あれこれ手を出してしまう自分を「器用貧乏」と責めてしまう人も多いでしょう。
しかし、もしかしたらその「器用貧乏」こそが、これからの時代を生き抜く最強の武器かもしれません。
この記事では、なぜ今「一流」を追い求めることにリスクがあるのか、そして「そこそこ」のスキルをいくつも持つことがどれほど価値があるのかをお伝えします。
読み終える頃には、きっとあなたの多様な興味や経験に自信を持てるようになるはずです。
詳しくはこちらの本をお読みください。
なぜ今「一流」を追い求めることが危険なのか
専門性だけでは生き残れない時代の到来
私たちはこれまで、特定の分野で卓越したスキルを身につけ、その道の「一流」となることが、自身の存在意義や市場価値を高める唯一の道だと信じてきました。
終身雇用制度が当たり前だった時代、一つの企業に勤め上げ、その中で専門性を高めることが最も安定したキャリアパスでした。
しかし、人生100年時代と言われる今、果たしてそれだけでいいのでしょうか。技術はどんどん進化し、ある日突然、長年積み上げてきたスキルが役に立たなくなることだってあります。
わかりやすい例で考えると、日本企業がかつて世界をリードした携帯電話市場において、フィーチャーフォンの技術に固執し、2007年のスマートフォンの登場とその後の急速な普及に対応が遅れた結果、世界市場での競争力を失ってしまったケースが挙げられます。
また、デジタルカメラの登場によってフィルムカメラ市場が急速に縮小した際に、デジタル化への転換に遅れをとった老舗メーカーも同様です。
内閣府の資料によれば、特定の「中スキル」に分類される就業者の減少傾向が示されています。これは、AIや自動化技術の発展により、中間的なスキルが代替されやすくなっていることを示唆しているのです。
変化に対応できない「一点集中」のリスク
「一流」を目指すことの落とし穴は、自分の時間も体力も、そして心の余裕も、全部その一つのことに注ぎ込んでしまうことです。
そうなると、他のことには目もくれず、趣味や新しい学びの機会を犠牲にしてしまうことも少なくありません。
現役中はそれで良いかもしれませんが、いざ会社を辞めてみたら、その「一流」の力を発揮する場所がなくなってしまって、困ってしまうことがよくあります。
定年退職した途端、これまで会社の中で持っていた専門的な知識やスキルを活かす場を失ってしまい、「何をしたらいいのかわからない」と途方に暮れてしまう人が少なくないのです。
さらに、現代社会はものすごいスピードで変化しています。
長年培った特定の製品知識や、会社独自の複雑な手続きに詳しいことが強みだったとしても、テクノロジーの進化やビジネスモデルの変化で、その知識が突然必要とされなくなる、なんてことも珍しくありません。
一つの専門性にこだわりすぎると、変化に対応できなくなってしまう危険性があります。
そうすると、定年後に新しいことを始めようとしても、これまでの思考が邪魔をしたり、新しい知識を吸収することに抵抗を感じてしまったりして、結局「楽しく生活することがしにくくなる」ことにも繋がりかねません。
「器用貧乏」が武器になる3つの理由
複数スキルの組み合わせで生まれる新価値
これまでの社会では、「器用貧乏」という言葉は、とかくネガティブなニュアンスで使われてきました。
「何でもできるけれど、これといった専門性がない」「結局、どれも中途半端で一流にはなれない」そのように、どこか後ろめたさを感じていた人もいるかもしれません。
でも実は、その「器用貧乏」な特性こそが、あなたの人生を豊かにする強力な武器になり得るのです。
なぜなら、一つのスキルを極めるだけじゃなくて、違う分野のスキルを組み合わせると、意外なほど大きな価値が生まれることがあるからです。
例えば、「そこそこ」のウェブサイト作成スキルと、「そこそこ」のカメラ撮影スキルが組み合わされると、魅力的なウェブサイトをつくることができます。
また、「そこそこ」のSEO対策のスキルがあれば、つくったせっかくの魅力的なウェブサイトに人を集めるためのさまざまな施策を思いつくでしょう。
それぞれが一流である必要はありません。「そこそこ」のレベルだからこそ、それらを柔軟に組み合わせることで、既存の枠に囚われない自由な発想で価値を生み出すことができるのです。
変化への適応力が圧倒的に高い
複数の分野に興味を持つ人々が持つ強みがあります。
まず、異なる分野の知識を組み合わせ、新しいアイデアを生み出すのが得意です。
次に、新しいことをすぐに吸収し、効率的に学ぶことができます。そして、変化の速い環境でも、柔軟に対応し、すぐに順応できます。
労働政策研究・研修機構の調査でも、「一つのスキルで働き続けることの困難さ」が指摘されています。
そして、「複数スキル習得のリスキリング」の重要性が言及されています。ま
さに、複数の分野に興味を持つ人材は、この「リスキリング」の考え方と合致する人材像と言えるのです。
一つのスキルが陳腐化したり、需要が減ったりしても、他のスキルがあることで、すぐに次のステップへ移行できる適応力が身につきます。
これは、予測不能な現代社会において、個人が持つべき重要な資産と言えるのではないでしょうか。
ニッチ市場を発見する力
複数のスキルをうまく組み合わせると、人にあまり気づかれていない顧客層や市場を見つけ出し、そのニーズに応えることができます。
これこそが「器用貧乏」の真価が発揮される場面です。
実際の例をお話しします。
プロのコーチをしている人が、また、Kindle本の作家でもあったとします。
コーチング用の特設サイトを作って「コーチングやります」といくらアピールしてもクライアントの申込みはほとんどありませんでした。
しかし、Kindle出版のための様々な知識や経験、その過程での困りごとなどを知っていたため、Kindle出版とコーチングとを組み合わせて「Kindle出版コーチング」という商品を売り出すことにしました。コンサルではありません。コーチングです。
すると、これまでは2年間で2人しか申込みがなかったのに、組み合わせによるKindle出版コーチングとして売り出したところ、初月で3人も申し込んでくれました。その後1年間で10名以上の申込みがありました。
コーチングとKindle作家という2つのスキルの組み合わせで、これまで見つからなかった新たな市場を見つけたのです。
このように、「そこそこ」のスキルの掛け算によって、あなただけのユニークな価値を創造できるのです。
マルチポテンシャライトという新しい生き方
アインシュタインも実践していた多才な働き方
「マルチポテンシャライト」という言葉をご存知でしょうか。
エミリー・ワブニック氏が提唱した概念で、複数の分野に興味を持ち、多様な能力を発揮する人のことを指します。
決して一つのことに集中できないことは欠点ではなく、むしろ多角的な視点と柔軟な適応能力を持つ強みであると再定義するものです。
実は、アルベルト・アインシュタインも特許庁の職員として働きながら物理学の研究に没頭した「アインシュタインアプローチ」を実践していました。
経済的安定を確保するための「メインの仕事」を持ちつつ、情熱を傾ける「創造的な活動」を別に持つという生き方です。
このような有名な偉人たちもマルチポテンシャライトであったことを知ると、長年の自己嫌悪から解放され、やっと心が楽になる人も多いでしょう。「やっと時代が我々においついたか」といった気持ちになるかもしれません。
そこそこスキルの掛け算効果
現代は「VUCA時代」と呼ばれる、先の見えない、変化の速い時代です。
技術革新はどんどん進み、これまでの産業構造も常に変化の渦中にあります。
そんな時代に、たった一つの専門性だけを頼りにするのは、ちょっと心もとないですよね。
このような変化の激しい時代に求められているのは、特定のスキルに固執するよりも、多様なスキルと知識を横断的に理解し、それらを組み合わせて活用できる能力です。
まさに、マルチポテンシャライトが持つ力が輝く時がやってきたといえます。
例えば、ITの知識と農業の経験を組み合わせることでスマート農業の新たな可能性を追求したり、介護の知識とアートの感性を融合させて高齢者のQOL向上を目指したりといった、異分野を結びつけることで新しい価値を生むことが可能になります。
これは、既存の枠組みに囚われず、柔軟な発想で新しい価値を創造できるマルチポテンシャライトならではの強みと言えます。
常に新しい知識への好奇心を持ち、学び続けることを厭わない姿勢こそが、不確実性の高い現代社会において、個人が定年後も「働きがい」や「生きがい」を見つけ、長く、そして豊かな人生を送るための土台となるのです。
あなたの多岐にわたる興味や「そこそこ」のスキルは、決して無価値なものではありません。
むしろ、それらはこれからはじまる高齢者から老後の時代を生き抜く上で、強力な武器となり得るのです。
「中途半端な自分」という自己認識から解放され、自身の多様性を肯定し、自信を持って未来を切り開いていけるはずです。
これからの時代は、「器用貧乏」こそが最強の老後戦略なのです。あなたの持つさまざまな「そこそこ」のスキルに誇りを持ち、それらを組み合わせて新しい価値を生み出していく。そんな豊かな人生のセカンドステージが、きっとあなたを待っています。